低毒性写真薬品
From Silvergrain Labs
暗室処理薬品の毒性や公害性について、関心が高まっています。この記事では、これらについて説明し、毒性や公害性を最低限度におさえる方法なども議論します。
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暗室での安全性
薬品の毒性には大きな幅がありますが、毒性の高低にかかわらず、重要なのは必要十分な程度の安全措置をとり、暗室作業者に対して安全上の必要な教育、トレーニングをすることだといえます。使用する薬品の種類、量、頻度などに応じて、必要な安全対策をし、作業中はエプロン、手袋、ゴーグル、フェースマスクなどの装備を用いることが重要です。また、換気も重要です。
代替可能な危険性薬品
一般的な白黒写真処理液は、以下のような化合物を含んでいます。
- ヒドロキノン:一般的な現像主薬で、低価格で扱い易いことから大手の製品のほとんどで用いられています。ヒトに対する急性毒性はよくわかっていませんが、実験動物、水生動物などへの毒性はよく知られています。この物質は遺伝子の突然変異源としても知られています。ヒドロキノンは、これらの理由で様々な法令規制リストに載っています。
- メトール:一般的な現像主薬で、多くの現像液に使われています。あまり発生しなくなったようですが、化学アレルギーを引き起す物質として知られています。
- 硼素(ボロン)化合物(ボラックス、硼酸、メタ硼酸塩など):一般的なpH緩衝剤で、フィルム現像液と定着液に広く用いられています。哺乳類への毒性は弱いですが、植物への毒性があります。
- EDTA(エチレンジアミン四酢酸):一般的なキレート剤で、ミネラル分の浮渣などの予防に使われていますが、生物分解性でなく、下水処理場などでも、効果的に除去されずに環境に放出されています。
適切な化学処方技術と代替化合物の選択により、これらの物質を使わずにも高性能の写真処理薬を処方することが可能です。私が開発した暗室処理薬品は、大手製品は今なお使用している上記の成分を完全に除去しています。
私の開発した処方のうち、一般的な薬品のみを使用するものは公開処方として公表されており、ウェブなどで誰でも閲覧し、自家調合して使用することが出来ます。これには、DS-12 フィルム現像液, DS-14 プリント現像液、中性迅速定着液、水洗促進剤などがあります。他の入手しにくい薬品を使用している処方は、公開処方としてもユーザーが自家調合しにくく、社会的な貢献度は限られるため、白黒写真の普及に熱心な零細企業の協力を得て商品化し、写真化学工場で工業的に生産し Digitaltruth Photo Ltd 社より一般に発売しています。製品ラインも拡充中です。(製品情報リンク等は、この記事の最後をご覧下さい。)
なぜ低毒性、低公害性を追求するのか
上記の4化合物は、低廉かつ効果的で、使いやすいために伝統的に写真処理によく用いられてきたものであります。十分な安全対策と適切な廃棄処理をすれば、全く問題なく使用できる薬品であり、事実このため、大手写真メーカーは今なおこれらを製品の処方に使用しています。
しかし、1990年代より環境問題、作業者の安全確保、その他環境関連規制の強化などを通じて、メーカーの技術者やユーザーレベルでの意識が向上してきています。これらの薬品を使わない、安全な暗室用薬品を製品として用意することは、色々な意味で利点があります。
まず、不意の事故、手違いなどで薬品に被爆してしまった場合などを考えると、最初から薬品の毒性が低い方が安心です。地震、火災、その他の災害時の影響なども、低毒性の製品を使っていればかなり限定的にできると思います。
廃液なども、一番良い方法は専用の容器で保管して、業者に適切に廃棄してもらうことですが、この廃液の容器が漏れたとか、輸送中に事故があった場合などを考えると、最初から低公害性で環境影響の少ない製品を選んだ方がよいと言えます。
この他にも、芸術学校などの暗室や、プロラボなどで、長時間作業する場合も、長期間薬品を扱うことによるリスク等を考えると、できるだけ安全な薬品を使うにこしたことはありません。そして、写真人口のデジタル化が進むにつれて、写真を趣味として自宅の簡易暗室で楽しむ人が増えています。このような場合も、やはり最初から有害な薬品をつかっていない、低毒性な製品の方が、安心して楽しめると思います。
また、環境、安全の規制が強まるとともに、学校などの機関での薬品の使用が難しくなる傾向にあり、担当者の異動やデジタル化を口実に、暗室の運用をやめてしまうケースも見られます。このような場合も、低毒性の製品が選択肢として存在する意義はあると考えます。
危険薬品の代替方法の概説
以下は、上記4化合物をいかに避けながらも高画質で使いやすい処方を得られるかを概説します。
- ヒドロキノン:この現像主薬は、ほとんどの場合、ビタミンCやその異性体で代替できます。安全な化合物であるだけでなく、生物分解性に優れ、空気による酸化、また日光による光反応でも分解されやすいのです。
- メトール:高性能でごく少量だけで使われるダイメゾンSで代替することが可能です。これはメトールに化学アレルギーを発現する人でもアレルギーが起きない物質です。
- ボロン化合物:他の適切なpH緩衝材で代替することができます。アルカノーラミン類、炭酸塩などが一般的ですし、これらはスキンケア製品、洗剤、シャンプーなどにも使われています。
- EDTA:業界標準の代替物はNTAやポリ燐酸塩などがありますが、私の処方では複数の無毒性で一般的な化合物を組み合わせて使用しています。クエン酸、サリチル酸、アルカノーラミン類やその誘導体などです。組み合わせを工夫することにより、現像液の保存性やトレーライフなども向上しており、これによって薬品の無駄も減らせます。
大手がやらない理由
大手写真メーカーは、昔ながらのウェット処理写真用の製品を新たに研究、開発するような状況にありませんので、縮小しているマーケットのためにこのような毒性のない製品をわざわざ開発してくることは、あまり考えにくいでしょう。仮に研究開発が完了していたとしても、無毒性の代替化合物は概して高コストになりがちで、この点でも大手は製品化しにくいと考えられます。
仮に、ウェット処理写真製品のマーケット規模が縮小していなかったら、大手も積極的にこのような製品を発売しているだろうことは容易に想像できます。現に、1990年代までは、コダック、フジフイルム、イルフォードなどはこぞって低毒性の製品に必要な技術の特許を取得していました。しかし、どれをとっても不完全で、そのまま商品化できるものはほとんどありませんでした。
大手の製品について
残念ながら写真から撤退してしまった独アグファ社の製品で、Neutol Plusという印画紙現像液がありました。これは、ハイドロキノンを使わず、ボロン化合物、EDTA、メトールも使わない、低毒性と環境無害性に優れた製品でしたが、撤退とともに製品もなくなってしまいました。独A&O社が薬品部門をひきつぎ、製造が再開されたという情報もありますが、現在のところ流通はドイツ周辺に限定されているようです。
現在市販されている白黒写真用の定着液は、硬膜定着液、あるいは硬膜剤を添加剤として別添している定着液は、ボロン化合物を含むものがほとんどです。90年代にコニカが硬膜定着液からボロンを追放する技術を開発し、特許を取得しましたが、コニカ自体写真から撤退してしまいました。現在の大手(フジ、コダック、イルフォード)が製造しているフィルム、印画紙を室温で処理する場合、乳剤は製造過程で十分硬膜されていますので、処理液の硬膜剤は不要です。硬膜剤を含まず、硬膜剤を別添していない定着液を選ぶことをお薦めします。(ただし、フォトグラファーズ・フォーミュラリー社のTF-4アルカリ現像液は、硬膜定着液顔負けの多量のボロン化合物を含むため、お薦めしません。)
「シルバーグレイン」ブランドで低毒性処理薬をデジタルトゥルース社から商品化
私は当初、アスコルビン酸現像液の画質向上効果に関心があり、低毒性は重要目標ではありませんでした。そのため、私の初期の公開処方の中には、上記4化合物のうち硼素化合物やメトールを使用したものもあります。しかし、研究がすすみ、ノウハウが蓄積されてくると、上記4化合物を全て避けることも十分可能であり、代替化合物の中には安全なだけでなく、画質や薬品の保存性向上に寄与する物質があることにも気づきました。技術的な問題は色々とありましたが、ひとつひとつ解決していき、今では製品化されているものは、有害な薬品を使用した大手製品と比べても画質や使い易さの向上が図られています。
写真家として、暗室作業者として、また写真化学技術者として、あえて何か困難があったかと言えば、やはり大手も諦めざるを得なかった技術の独自研究、開発でしたが、私自身、化学には通じており、また科学的、技術的な関心もあるため、それほど苦痛ではありませんでした。また、安全な薬品はコスト高になりがちですが、それでも一回使用分に換算すれば五円、十円の小さな問題であり、安全性はそれをはるかに越える価値があると思います。
そして、自分用に開発し公開してきた技術も、だんだんと高度になってくると、いくら完全公開しても一般ユーザーには利用しにくい専門情報と化してきました。高性能、低毒性、低公害性などを推進する以上、やはり大規模ユーザーが有害物質を追放しないことには社会的な効果は期待できません。ところが、大規模暗室を運営する学校、プロラボ、有名写真家などは、自家調合が壁となり、情報が完全に無料公開されているにもかかわらず、なかなか利用していただけない状況が続きました。そして、インターネットフォーラムなどでも、私の処方を「製品」として「買いたい」という人が現われてきました。
ここで、Digitaltruth Photo社の社長さんと、ある写真化学工場の社長さんと話をする機会があり、これは製品化してみようということになりました。他社からも声がかかりましたが、やはり一番新鋭の販売会社であるDigitaltruth社と、経験と技術力のある写真化学工場と提携、ライセンスすることになりました。
つまり、私の製品は、私の「私用研究」が、わずかな零細企業と中小企業工場の熱意ある社長さん達のお陰で実現したものです。
その他の一般的な成分
写真処理薬は、他にもいくつか一般的な成分があります。特に有害ではありませんが、可能な限り、科学的な毒性データが得られる物質で、また洗剤、シャンプー、化粧品、食品添加物などの日用品の成分としても使われているものを選びたいものです。また、同じ機能と同等の毒性(あるいは公害性)なら、できるだけ少量で性能が出るものを選ぶなどの方法で、トータルとしての毒性を最低限におさえ、そして廃液に含まれる無駄な薬品を減らしたいものです。
シルバーグレイン製品の処方は非公開ですが、完全に公開されている類似処方もあります。また、製品には安全データ(MSDS)が公開されています。関心のある方は、これらの情報を調べてから、どの処方(あるいは製品)を利用するか決めることを薦めます。
その他の有害な薬品
減力剤(reducer)や、漂白剤として使われる赤血塩(フェリシアン化鉄塩)や重クロム酸塩は環境有害性が強く、廃液の管理と処分には注意が必要です。廃液処理業者に処分依頼するべき薬品です。
セレン調色液に含まれるセレンは、毒性があります。(微量なら栄養素として機能するのですが、調色液に含まれる量はそれをはるかに上回りますので毒性物質とみるべきです。)沿岸地域などでは土壌に自然にセレン化合物が存在するのですが、一応廃液処理業者に処分を依頼するのが安全です。
多硫化調色液(硫肝使う含む)は、液そのものは下水に流しても差し支えないのですが、使用中に発生する硫化水素ガスは卵の腐ったような不快な匂いであり、また有毒です。そして、このガスはフィルムや印画紙をかぶらせる原因になります。使う場合は換気に気をつけ、未処理の印画紙やフィルムの近くでは使わないようにしましょう。
おことわり
この項目の内容は、低毒性暗室薬品(英語)の内容を日本語で書き直したものであり、内容はほとんど同一です。
上記記事中紹介されている製品の発売元はDigitaltruth Photo Ltd(デジタルテゥルース・フォト社)であり、商品の紹介はシルバーグレイン(silvergrain)低毒性暗室薬品(英語)およびシルバーグレイン(silvergrain)低毒性低公害性写真薬品(日本向けの紹介)でご覧下さい。私個人と、シルバーグレインは、写真活動一般をすることが主眼であり、これらの製品に関連しては製品化へのライセンスなどを行なうのみで、原則としては製品の販売、マーケティング等商業活動は全てデジタルテゥルース社の管轄になります。(日本語による質問などは、可能な範囲で柔軟に返答いたします。)
2007年2月より、日本ではトイカメラやピンホールカメラで有名なエーパワー社から販売開始されています。